自分の会社ステンレスジョイントは小さいながら製造工場なので、製造工場の見積の話です。
商社さんが商社さんに見積依頼をする場合でも、ものづくりが必要なものであれば、結局最後はメーカーが見積もってるはずです。
上場企業さんの案件も、実は最終的に2,3人でやってる工場が製作してる、なんてことはザラです。
で、その見積なんですが、見積の難しさには3通りくらいあります。
1番目。
技術的にいくらかかるのか、わかりにくい。
一番単純です。
純粋に加工そのものが難しい場合ですね。
往々にして価格も高額になりますし、仮に単価が低くても高収益になることが多いです。
作り方や解釈によっても大きく変わるため、メーカーにより見積金額が倍半分になることもザラです。
リスクもリターンも高いパターンですね。
自社の技術が高かったり、競合が少なければ、ローリスクハイリターンになりますが、そのためには、その状況を生み出すためのインフラ的な投資が必要になったりします。
1社では加工が完結せず、何社も経由して製品が仕上がる場合もあります。
そういう場合は、取りまとめのメーカーが各工程を担当する協力工場に聞いて回って、その案件の将来を背負うわけです。
失注すると、各協力工場に残念な気持ちが伝播してどこまでも広がっていきます。笑
2番目。
どのくらいであれば通るのか、わかりにくい。
発注価格=製造に実際かかる費用ではない場合がこれです。
実際にかかる費用を見積もれば、それが受注価格になるのであれば話は早いですが、ほとんどの場合はそうではありません。
相場もあれば、予算や実績価格に合わせる場合もあるからです。
機械の損料なんかはメーカーによっても考え方が違いますし、全額入れると乗せ過ぎになる場合もあります。
それと付加価値を見込まないと、メーカーとしてはいつまで経っても儲からないんですが、純粋な加工賃だけしか支払いたくないバイヤーもいます。
他社が儲けるのは許さない、という考え方ですね。
もちろん逆の会社もある。
特に相見積もりの場合は下げ合いが起こりがちです。
エンドレスで下げ合うと過当競争になり、一見受注したメーカーはハッピーに見えますが、実際は利益が目減りしてます。
サプライヤー同士が共倒れになります。
そのまま進むと市場が崩壊に向かうので、僕はあまりやりません。
短期的に見れば、バイヤー側は得をしますが、市場が崩壊するとサプライヤーは倒産するし、サプライチェーンもへったくれもなくなります。
つまり長い目で見るとバイヤーも含め全員が損をします。
3番目。
仕様がわかりにくいか、わからない、もしくは明らかにおかしい。
そもそも要求が明確ではない場合がこれです。
もちろん基本的には問い合わせをして、明確にしていくのですが、見積期限まで時間が無い場合や、そもそもお客さんがあまり内容を理解されていない場合、問い合わせが面倒臭がられる場合など、様々あります。
また、相見積もりの場合は、問い合わせのキャッチボールが増えるほど、見積メーカーによっては、見えない費用がどんどん積まれていくことになります。
僕の持論ですが、相見積の場合は最低限でも問い合わせが発生しない図面にしておいてほしいです。
見積全ての会社が同じ箇所を問い合わせるのは、あまりにも非効率です。
多くの会社に不幸の預金残高が溜まっていきます。笑
毎回それが続くようであれば、メーカーにタダで検図させている構図になってしまいます。
見積仕様と異なる点を示すことをデビエーションと言いますが、デビエーションと称して、その情報を故意にタダで集めているのであれば悪質ですね。
売り上げが継続しているお客さんであればいいのですが、毎回予算の厳しいお客さんや、初めてのお客さんで、のっけからそれやと事業としてのリスクに加えて、やる気が下がります。笑
エイヤで出してまえ、ゆうことになることも多いです。
深く考えず適当に、という意味ですね。
鉛筆転がし、とも言う。笑
それで高い見積が行ったら、お客さんからしても「なんでこんな高いねん。これやったら、もうこのメーカーは使えへんな」となって、お互いに不幸ですよね。
やから本音で話せる関係でありたいと思う。
しかも実際は組み合わせが発生して、1かつ2かつ3、なんていうパターンも多いです。
いわゆる常識の範囲内であれば問題ないですが、あまりにも見積が決まらないと、メーカーは見積らなくなります。
ちなみに論外は、図面が潰れてて読めない、です。
時間の無駄なので、営業担当がいないメーカーやとスルーするところもあると思います。
これは仕様の中身の話ではないので、いわゆる見ればわかる話です。
資料を見てから送ってない、という点で、バイヤー側も乗り気ではない、やっつけで仕事してる、という雰囲気も出がちです。
町工場の肩をもつ言い方になりますが、専属の事務スタッフがいなければ、もうしょうがない部分があります。
僕も自分がやってたからわかりますが、油のついた手で事務仕事は捗らないです。
逆に同志の町工場にもお伝えしたいのが、ちょっと頑張って営業的視点で対応していけば、ステップアップに繋がりますよ、ということですね。
うちは僕も含めて営業がいるので、できるだけ対応するようにしていますが、まあ感情としてはいろいろあります。笑
見積に関して、できたらお客さんも理解しておいてほしい考え方があります。
例えば3つの製品の相見積を2社にして、全てを1番安いところに発注すると仮定した場合、バイヤー側は少なくとも表面上すぐにメリットが出ますよね。
1円でも安いところを選べるわけですから。
表面上、と書いたのは、調達コスト以外に手直しや再製作が発生し、最終ユーザーへの信頼の低下を引き起こすなど、低価格に潜むリスクが後から顕在化する場合があるからです。
上記、1つも発注されなかったサプライヤーは見積にかけた時間の分損失が出ます。
上にも書きましたけど、不幸の預金残高ですよね。
見えない負債です。
ここがすごく小さく評価されています。
おそらくですが、小さい会社やな、と馬鹿にされているんやと思います。
もしくは、そこまで深く考えてない。
見積は無料という場合が多いですが、製造工場に見積を取る場合、ほとんどの場合は実際にはコストがかかっています。
実際に加工ができるか複数の人間で時間をかけて検討したり、加工時に機械や工具の干渉がないか検証したり、場合によってはテスト加工をしないと見積ができない場合もあります。
安い見積を提示できなかった方が悪いやん、という気持ちもわからんでもないんですが、他の2社が出した見積もりのお陰で検討が進み、カードが手元にあるおかげでサプライヤーにも強く出られたはずです。
1社しか回答が無かった場合、納期も価格もサプライヤーの言い値、言いなりになってたんじゃないでしょうか。
その、見えない価値を大事にして欲しいし、他の2社に何らかの形で還元されてもいいんじゃないかと思います。
僕は可能な限り、にはなりますが、時間のかかる見積をしてもらった時は、同じものは無理でも何か小さなものでも発注できるよう気をつけているつもりです。
それでも、いや御社からずっと見積依頼しかもらってないで、という会社さんはごめんなさい。
連絡ください。笑
見積をしてもらうくらいには普段から発注してるもんね、と胸を張れるかどうか、は大事やと思います。
ただし別にサプライヤー側が偉い、というわけではないため、サプライヤーがふんぞり返る、というのも違うと思います。
ちなみに、相見積や二社購買がだめ、というわけではなくて、むしろ調達活動におけるリスクヘッジにおいては必須やと思います。
自分だって相見積もするし、複数社購買もします。
申し訳ないけど、型番で発注できるような大量生産品は見積行為にかかる費用が相対的に低くなりやすいので、対象になりやすいです。
特に、複数社購買というのはBCP(事業継続計画)の観点からも、いつサプライヤーから通常通りの供給が断たれるかわからない、ということは考えておいた方がいいです。
取引先の廃業や、職人の離職など、災害だけがリスクになるわけではないです。
御社とはもう取引したくない、と、理由もなく告げられる可能性すらあります。
少なくとも、見積という行為は法人間での取引において、とても重要な活動である、ということと、同じ見積行為でも、会社や人によって考え方や進め方が全然違うということですね。
信頼関係が強く維持できていれば、見積も、うまくいきやすい。
信頼は究極のコストダウンになります。
一見相見積というのは価格と納期だけを擦り合わせてるように見えるんですが、実はお互いの価値観を擦り合わせてるようなところもあるんですよね。
やから、金額が高くても決まる場合もあるし、双方から歩み寄る場合もあるし、一旦は他社に決まったものが戻ってくる場合もあります。
そして自分の場合はっきりしているのは、見積や受注がうまくいってないのであれば、受注に関する社内のマネジメントも含めて、自分の能力が明らかに足りてない、ということですね。
厳しい状況に立たされるほど、鬱憤を燃料として投下するに限る。笑
結局、能力の無い自分が悪いから。
文句を言っている時間があれば能力の向上に充てようと思います。笑